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日常にあふれる困りごとは、こころの仕業?


またブログの更新が久しぶりになってしまいました。

寒暖差があったり、雨が続いたり、すっきりしない時期ですね。

実は、雨が降る、寒いといった細かなことさえ、私たちのこころに作用します。

このブログが、認知症の症状の一つとして、怒りやすくなった方のこころを

サポートするためのヒントとなれば嬉しく思います。

居心地の悪さが攻撃行動につながる

攻撃性に対する考え方は、3つに大別されますが、今回はその中の二つをご紹介したいと思います。

まず一つ目は、フラストレーションの蓄積による欲求不満を解消するために攻撃行動が行われるという情動発散説です。

Berkowitz(1989)は、攻撃動因は不快感情によって高まり、攻撃反応を引き起こすという不快感情発散説を唱えました。

  認知的評価・解釈  認知的制御 
      ↓        ↓
嫌悪事象⇒⇒⇒⇒不快感情⇒⇒⇒⇒(外的な)攻撃動因⇒⇒⇒⇒攻撃反応

ここのでのポイントは、不快感情には、否定的な感情とされる、怒り・悲しみ・憎しみなけでなく、

恐れや哀れみ、居心地の悪さも含まれるというところです。

例えば、晴れの日や雨の日、どちらの方が攻撃的になりやすいでしょうか?

実は、雨の日の方が攻撃的になりやすいと言われています。

つまり、暑い(高温)や不快な匂いや光景といった、日常の些細な出来事も攻撃的行動に繋がる可能性があるのです。

暖かくなり咲き始めた可愛らしい梅の花に、こころが癒されます

自分を守りたくて攻撃することもある

二つ目に、攻撃行動には、社会的な問題解決の手段としての役割もあります。

  • 強い恐怖に基づく自己防衛として「防衛・回避」
  • 自身の意図した方向に他者をかえる攻撃である「強制」
  • 不正を正し、人に対する怒りを伴う攻撃である「制裁・報復」
  • 自己イメージを演出させるための「印象操作」の攻撃です。

自分に自信がない人は、自身に影響力を行使する資源がないために、威嚇や罰を用いやすい傾向にあるとも言われています。

特に、認知症を患う方々は日々不安や焦燥に駆られていることが多く、自身の記憶力の低下や、加齢に伴う身体面での衰え、そのことを隠すために更なる孤独感が強まる傾向にあります。

孤独感も、不快感情のうちのひとつであり、他者に対しての攻撃行動につながりやすいといわれています。

これは更なる孤独感の高まりにつながり、悪循環に陥ってしまいます。

記憶が抜け落ちて、自分が自分でないような感覚に捉われる、抗いようのない恐怖を他者へ投影し、攻撃的になることは、自己防衛の一つなのです。

投影とは、「受け入れられない自分の感情や不快なもの、あるいは自分の悪い部分などを相手に映し出して、相手が持っていると思い込むこと」です。

最近の研究では、例えば会話に入れないといった排斥された時の主観的な不快さ(distress)と、人が身体的な痛みを感じる時に活性化する脳部位は、相関関係を示すことが示されています。

(Eisenberger et al. 2007)

孤独感は自己制御が難しく、自己摂生などの機能を妨げ、不健康をももたらします。

心の痛みは、身体の痛みとなり、孤独感を感じ続けていると、抑うつや自己非難、情緒不安定、アルコール中毒といった様々な不適応を示すことがわかっています。

 適量で楽しいお酒が良いですね

孤独感を軽減するソーシャルサポート

孤独感に対処するためには、周囲の支援やソーシャルサポートを受けることが有効です。

ソーシャルサポートとは社会的関係においてやりとりされる支援を指します。

人間関係や支え合いは健康にとって極めて重要であり、人とのつながりが心の安定につながることが示されています。

ソーシャルサポートには、情報的、情緒的、評価的、道具的サポートがあります。

  • 情緒的サポート(不快感や不安感を軽減させ、情緒的安定を促すサポート)
  • 道具的サポート(援助を必要とする人に直接役立つサポート)
  • 情報的サポート(問題解決に必要な情報や知識を提供するサポート)
  • 評価的サポート(個人の行動や業績にふさわしい評価を与えるサポート)

身体的な苦痛といった、生理的な欲求が満たされていない状況での安心・安楽のためのアセスメントは、第一優先に行われることが重要です。

認知症を患う場合、自身の不調を上手く伝えられないこともありますので、表情や言動、身体状況、日常生活活動、認知症特有の行動症状の有無や程度の把握も重要です。

また、声かけやタッチングによる痛みの部位や程度を把握し、鎮痛剤など薬剤の使用についても主治医に報告・相談を行います。

加えて、私はモンテッソーリケアの観点から、それぞれの人が置かれている立場によって適切な「役割」のサポートが存在すると感じています。

 手当ての効果は、時に絶大です

モンテッソーリ流「ありがとう」をたくさん感じて生きる

モンテッソーリケアでは、目の前にいるその方だけでなく、その方が生きてこられた人生そのものを知り、サポートすることに重きを置いています。そのため、その方の興味や能力、ニーズを知ることはとても重要となり、人はそれぞれに合った役割を持ちます。

日本の介護現場で働くと、人材資源が限られていることから、業務優先となったり、その方に残されている残存機能を考慮に入れず、画一的に全てをやってあげることが介護職の優しさであると考えている人も一定数いると感じます。

全てをしてあげることは、高齢者の自尊心を傷つけることにつながる。

(Arling,1976)

全ての人は、コミュニティに貢献することで、感謝され、達成感や自己肯定感が増します。

これは寝たきりの人にも適応されます。私は特に「もう自分には何もできない」と思っている方にこそ、役割を持っていただき自身が感謝される存在であることに気付いていただきたいと思っています。

現に、これまでのお仕事での出会いの中で、モンテッソーリケアを通してメモリーブックやその方のこれまで生きてきた中で大事にされてきた人や物に触れる機会がありました。

その方が人生を生きてこられた軌跡をたどることで、毎回その豊かさに感銘を受けます。

悲しみや虚しさに耳を傾け

そしてその方にとっての最も輝かしい思い出の道具や作品、写真、良く聴いておられた音楽

そういったツールをきっかけに、またその方の人生の豊かさを学ばせていただけていることの感謝の気持ちを伝えています。

 お若い頃からたくさんの彫刻作品を作られてきた作品集、とてもすてきです!

できることを続けること

前々回のブログでは、宣言的記憶に関することを書かせていただきました。

今回は非宣言的記憶のうち、一度習得すると自動的に機能し長期間保持される「手続き記憶」をご紹介したいと思います。

分かりやすい例では、自転車に乗るといった、同じ経験の反復によって形成される、運動技能、認知技能、習慣です。

この手続き記憶でポイントとなることは、身体を使ってできるだけ続けていただくことです。

この写真は、数年前に撮影したものです。

おしゃれが大好きな祖母が、洗面台の鏡を見ながらお出かけ前に髪を梳いているところです。

認知症の進行につれ、また、コロナのために施設面会ができなくなった数年で

残念ながら、祖母の髪を梳く能力は失われてしまいました。

モンテッソーリケアでは、できなくなったことはを決して無理強いせず、できることに着目します。

祖母の場合、昔から猫が大好きな人だったので、撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす猫のぬいぐるみを数年前にプレゼントし、ずっと可愛がってもらっていました。

現在に至るまで、このぬいぐるみの猫をなで慈しんでくれます。

続けなければ失われていく能力もありますが、できることを続けることは

いかにその人らしく生きる上で大切か祖母から教えてもらいました。

ねこちゃんが喜んでいるみたい、ありがとうと伝えます

人として尊重されること

これまで述べてきたように、攻撃的な態度や言動は、こころのメカニズムが関係しています。

とはいっても、攻撃された側は、感情を持った人間である以上どんな立場の者でも大なり小なり傷つきます。

「信じられない!ばか!どうしてそんなにへらへらと笑っていられるんだ!」と言われた時、

ここで大切なことは、「誰が何と言おうと、私は私を肯定できる」という立場で揺らぎがないことではないでしょうか。

この気付きがあってから、加齢に伴い無力さに打ちひしがれる言葉や、私に向けられた攻撃的な言葉を投げかけられた時も、

その時の言動や行動、態度だけで、動揺することはなくなりました。

対話の中で役割や立場を超えて、人格として関わり合い、つながりの中から共に発達していくことが、ケアの本質である。

(Letice,2008)

そして、この自分自身への自己肯定のメッセージは、

恐怖と他者へ投影し疑心暗鬼になっている相手を受け入れ、その相手の自己肯定感をも高めることにつながりました。

長い人生の中で、本当に少しの時間しか関わることのない関係性であっても

自己開示をした上で、一生懸命その人を知る努力をすれば、

色々な自分をその人に知ってもらえ、色々なその人を知れるはずです。

ご家族様にとっては、昔から良く知るその人は、今この時は目の前にいなくとも

過去も今も未来も、その人はかわらず、愛するその人です。

できることを続けていくことで、時折、ひょこっと見せてくれる

昔を彷彿とさせる、おちゃめな表情や仕草、言動に胸が熱くなります。

サポートの方法に間違いはないからこそ

色んな可能性を探り

色んな失敗もして

相手を知る為に繰り返し挑戦すること

自身とその人の自然の変化を見守ること

これからもお互いが人としてきちんと尊重されている最適な関係を築いていきたいと考えています。

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