強みに働きかけること
強みを生かし続けるには?
誰しも、年を重ねても、できる限り自分のできることしたい、と思われるでしょう。
今日は、お一人お一人の、強みに働きかけるアプローチについて、一緒に「お料理」をすることをベースに、わかりやすくお伝えをできればと思います。
自宅でご家族様や、施設でスタッフが、認知症の方とご一緒に、お料理する際に、少しでも役立てていただければ嬉しいです。
認知症となると、お料理を毎日していた方が、方法を忘れてしまい、時に火をつけっぱなしにしてしまうなどの危険があるため、台所に立たなくて済むように、ご家族が配慮されているところをお見受けします。
モンテッソーリケアを取り入れている、施設の中には、スタッフが見守ることで、一緒にお食事やおやつ作りができる場所があります。
もちろん火や包丁を使う調理の際、特に注意は必要です。しかし、認知症と診断されたしても、ご自宅でも、ポイント押さえて一緒に調理が行えれば、その方が、これまでの人生でしてきた「お料理」という強みを生かし続けることができます。
お料理上手なAさん
Aさんは、普段、施設に暮らしながらデイサービスを利用されている方です。
住まわれている施設では、お食事は3食提供されます。
Aさんは元々お料理することがお好きなので、週のうち、デイサービスに来られた日は積極的に、お昼ご飯づくりのお手伝いをお願いしています。
施設に住み始めてから、元々お好きだった料理はする必要がなくなってしまったAさんですが、デイでのご様子をみている限り、今でも「身体で身に着けた記憶」である包丁使いや料理の技術は衰えていません。
人参のような硬い野菜をきる時も、立ったまま力を込めて切ることができます。
他の方は、椅子に座ったままで硬い野菜に包丁を入れることは難しいことが多いので、これも実践の中で発見したことですが、歩行や姿勢が安定している、Aさん独自の強みとも言えます。
まず、お手本を見せすると、「あぁ、いちょう切りでいいのね」と、寸分たがわず同じ幅でカットしてくださいます。
この時、スタッフはお手本をお見せした後、Aさんが集中している間はこちらからはお声がけしません。
終わるまでは、じっと待ち、見守ります。
認知力な低下に伴い、「次は何をするんだっけ?」と、手順を把握しておくことは、難しくなりますが、次はこれをしましょうとこちらからお伝えすると、身体の動きはスムーズです。
悩まれているご様子があれば、もちろん途中でお声がけしますが、説明はできるだけ視覚的に、混乱の元になるので、言葉で伝えようとしすぎないことが大切です。
また、Aさんは、元々几帳面な性格の方であり、お肉を均一の火力で炒めることもお上手です。
電磁調理器の前で、フライパンの中のパックから取り出した、塊になっているお肉を、誰にも聞かずに、自らきれいに菜箸で肉をほぐし、とても丁寧にこげないように炒めてくださいます。
Aさんには、炒めるところまではしていただけるという把握がスタッフにはありますので、Aさんを視野の端に入れ、危険がないように配慮しながら、スタッフは他の方と、器を数えるなどの仕事ができます。
炒め終わるタイミングはこちらで判断し、本当に助かりましたと、感謝をお伝えします。
強みをみつけ、生かし続けるために必要なこと
このように、他の人から、自分の出来ることを生かすことで「ありがとう」と言われ、その方の自尊心を尊重することで、介護現場に、もっとたくさんの笑顔が溢れればと思います。
実際、この後Aさんは、「他にできることないですか?」と意欲的で、お味噌汁の取り分けをお願いしてみたところ、人数分用意したお椀に、具と汁を均等に取り分けてくださったので、この日から、お味噌汁の取り分けも、Aさんの役割になりました。
Aさんとの関わりの中で、できることをさせてもらえる場、他人がやりすぎないで、小さなことでもいいから人の役に立つことができ、人から感謝され認めてもらえる場づくりがいかに大切か教えていただきました。
Aさんにとっての強みは、「お料理の技術」と、私がお役に立てることがあれば、という「自発性」、そんな自発性が生かせる場があることは、 自分には価値がある、という「自己肯定感」を生み、そこにいることを楽しむことができるようになるのだと実感しました。
次回のテーマは、「言葉の裏を読む」です。
私に気付きを与えてくださった、Bさんの言葉から自己効力感について考えます。
つづく・・・